ヒト

ただ、おいしいものを食べてもらいたい。
シンプルな想いが創り出す“届け方”

株式会社青森屋 代表取締役

大髙 俊則

オオタカ トシノリ
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眩しい太陽のもと出迎えてくれたのは、鶴岡駅から歩いて5分ほどにある青果店「フルーツショップ青森屋」の三代目社長、大髙俊則だ。取材当日は7月末の猛暑。太陽のせいでいっそう白く見えるポロシャツから伸びる黒く日焼けした腕。そんな、いかにも青果店の店主といった風貌の大髙が話す「くだものや」とは。

青森屋のはじまりは昭和元年ごろ。初代である大髙の祖父が、青森からりんごを背負って売りに来たのがはじまりだという。

「なかなかうまくいかなったなか、初めて売れたのがここ鶴岡だった。そうしてここで青果店をはじめることになったんです。屋号はどうするとなって、青森から来たんだから青森屋だ、と」

 青森屋三代目社長というと、学校を卒業したらすぐに入社し社長となるべく働き出したと思うかもしれない。だが、大髙の経歴はそうすんなりとはいかない。すぐに青森屋に入るのも“なんだかいやだ”と思い、名古屋へ行き自動車工場へ入社した。なぜ自動車工場なのか聞いてみると、「自動車が運転できると思ってね」と答える。「でもね、運転できなかったんですよ。しかもこれが辛い仕事でね。あ、でも、一日も欠勤なんてしなかった。皆勤賞」

笑いながら当時を振り返る。そののち、“なんとなく”山形へ帰ろうかと思い切符を買う。だが、東京で“なんだかふと”降りてしまう。東京で暮らし始め、父の紹介もあり青果店に勤めた。贈答品の果物を販売したり、果物を使ったフレッシュジュースを作って売ったこともあった。そうして結婚、子どももでき山形へ帰ろうかというとき。

「親父がいま帰ってきてもやることないよって言うんです。さらにハンバーガ屋を始めなきゃいけないとか言うんで、修行をして来いって言うんですよ。だから知り合いのところに行って働き始めたんですよ。そこでは解体から調理からすべてやったんです」

そうしてのち、鶴岡の青森屋に帰ってきたというわけなのだが、そのときのことを振り返り「そういう経験があったから、いざタルトをやるとなったとき、一から始めても全然苦にならなかった」と話す。ピンと来たら行動に移す。その行動力は青森屋に帰ってくる前にすでに養われていた。

ただ、おいしいものを食べてもらいたい

インターネットで「青森屋」と検索を行うと、必ず出てくるのが「タルト」という言葉。青森屋の一階部分は、山形県や近隣の各県から仕入れた、新鮮な果物が並ぶ青果店。二階部分がその果物を使ったタルトやフレッシュジュースを提供するカフェスペースになっている。地元、近隣の人はもちろん、遠方からの観光客もここを目指してくる人は少なくない。カフェスペースの営業を開始した経緯を聞くと「おいしい果物を食べてもらいたいから」というシンプルな答えが返ってきた。

「タルトケーキの販売開始が2008年。カフェを始めたのがその翌年の2009年です。そのころは、個人経営の米屋さんなどが淘汰されていく時代でした。うちも例外ではなく、何かをしないといけないという思いがありました。そこでふと、肉屋はハムカツやコロッケなど、自分の商品を使って加工品を売っているのだから、果物屋がやらないというのもおかしいと思ったんです」

そこで生まれたのがタルトケーキ。果物そのものには自信がある。問題はそれをどうしたら口にしてくれるかということだった。例えばメロン。人数の少ない家族にはひと玉では多く、高価な買い物になってしまう。そうなれば必然的に食べてもらう機会がなくなってしまう。そういう状況を考えた上で辿りついたのがタルトケーキだった。最初は販売を反対されたというが、このタルトケーキが評判を呼び、翌年にはカフェスペースを設けるまでになった。

「このケーキをここで食べていけたらいいね、という一言がお客様からあったんです。それでピンと来てすぐに作ることにしました」

白を基調としたカラーリングのおしゃれな空間。お客様同士が目線を合わせることが少なく、落ち着いた気持ちでずっといたくなるようなスペース。“日焼けした果物屋のおやじ”からは想像のできないおしゃれな空間だ。内装からデザインまですべてもちまえの行動力で大髙が手がけたという。

惚れ込んだら抱え込む

青森屋として初代から受け継がれているものはあるか聞くと、「抱え込むということ」だと言う。

「青森はりんごで有名ですよね。りんごの収穫時期は冬。青森ではそれをさまざまな設備でおいしいまま貯蔵しているんです。それで、少し時期のずれた季節でもおいしいりんごを提供できる。その考えを先代から教えられて、“おいしいものを見つけたらまず抱え込む”という考えを実践しています」

果物のような生ものを扱う店ではあまりやっていない方法だと大髙は言う。多くの店が、コストの関係から売れる分だけ仕入れる。しかし青森屋は“おいしい”となれば、まず抱え込んでしまう。それをおいしいタイミングでお客様に提供する。

「これはおいしいからとにかく売ってくれといっても、最初は農家の方も半信半疑。だから惚れ込んだらとにかく勉強させてくれといって通わせてもらうんです。そうしてやっと話ができる。さらにうちは例えばラ・フランスなら、その農家のものしか扱わないようにしています」

だから「去年ここで買ったあのラ・フランスがほしい」と言って来てくれるお客様もいるのだそうだ。自分の足で探し出して食べる。惚れ込めば通いつめる。そうしてやっと手に入れた自分の納得できる果物をお客様に提供しているのだ。

気持ちを捨てて、心で働く

大髙が社員を含め、自らにも言い聞かせている言葉が「気持ちを捨てて、心で働こう」というものだ。

「気持ちというのは、自分の感情ですね。いらいらしたり、頭にきたりということは誰にだってあります。でもそれを仕事の場では出さない。“ありがとう”という心で働いてみるんです」

例えばお客様から「皮をむいて食べるのが面倒なんだ」という声があったとする。青果店で働いている身としては、「何を言っているんだ。食べるためには皮をむくのなんて当たり前だろう」と思ってしまう。だが大髙はこう言う。

「そういう、いらいらをまずは押しとどめる。そしてお客様の言葉を、一度心のなかにしまっておくんです。それがふとした時に頭の中に響くんです。“あのお客様はいますぐ、ひと口食べたいって言っていたんじゃないか”って。目の前に果物があって、それをいますぐ食べたいって当たり前のことじゃないか。だったらその場で切って食べる分だけ売ればいいじゃないかって」

そんな風に、大髙の発想力は飛躍していく。人気を博しているカフェだってそうだ。「このタルトをここで食べたい」というお客様の声からはじまった。カフェスペースを設置するには手狭な店だったから「そうは言ってもねぇ」という気持ちもあったかもしれない。けれどもその声を“気持ちを捨てて、心で受け止め”た結果、完成したのが評判のカフェなのだ。

「これはまだまだ具体的なものではありませんが、『うちで果物を作ってしまおう』という想いもあるんです。例えばいまのこの店の3階にハウスを作ってしまって、ブルーベリーなどのもぎとり園を作ってしまう。果物を買って帰れる。果物を使ったケーキを食べ、ジュースも飲める。そして自分の手で果物をもいでその場で食べられる。“フルーツランド”とでも言うんですかね、そんな夢もあります」 

笑いながらそう話す大髙の顔を見ていると、なぜだかその“フルーツランド”の様子が浮かんできてしまう。おいしいものを食べてもらいたい。そのシンプルな想いが創り出す“新しい届け方”。一体どんなものが生まれてくるのか楽しみだ。

株式会社青森屋 代表取締役
大髙 俊則 オオタカ トシノリ

1963年、青森屋二代目大髙和美の長男として生まれる。高校を卒業後、名古屋へ移住し自動車工場に勤務。のちに東京へ移り、青果店で働く。鶴岡に帰りハンバーガーショップに勤務したのち、平成元年に青森屋に入社。平成16年より代表取締役を務め、現在に至る。

株式会社青森屋

鶴岡駅から歩いて5分。山形県の果物を中心に、近郊各県の本当においしい果物を集めて販売。また、その果物を使ったタルトケーキも人気。ケーキとともに砂糖などを一切使用せず果物のみで作ったフレッシュジュースを楽しめるカフェも併設され人気を博している。
鶴岡市末広町7−24