ヒト

酒どころでの出会いを力に、
世界中が熱狂するSAKEを。

株式会社WAKAZE 代表取締役社長

稲川 琢磨

イナガワ タクマ
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オーク樽で熟成させた「ORBIA」、和の柑橘やハーブが華やかに薫る「FONIA」。鶴岡市に本社を構え、「日本酒を世界酒に」を合言葉に革新的な「SAKE」を生み出し続ける株式会社WAKAZE。起業の経緯や事業への想い、庄内との関わりについて、代表取締役社長の稲川琢磨に聞いた。

東京都出身、理工学研究科修了。そのプロフィールからは、なぜ庄内でオリジナルの日本酒開発をしているのか、皆目見当がつかない稲川。転機になったのは、在学中に経験した2年間のパリでの生活だった。

「流体力学を専攻し、工学系のエンジニアを目指して『Ecole Central Paris』に2年間留学しました。世界中から官僚や企業のトップになるような人ばかりが集まる大学で、ジェネラリストの養成を目指している大学なので、専門分野以外にもさまざまな学問を幅広く学ぶことができる環境でした。実家が事業をやっていたこともあり、自分でビジネスをやってみたいという漠然とした想いは持っていましたが、世界のトップクラスの仲間たちに囲まれ経営やファイナンスなどを学ぶうちに、その想いが強く明確なものになりました」

力学からビジネスへ。関心の対象が一気にシフトした稲川は、帰国後インターンとして働くことに全精力を注いだ。社員2名を部下としてつけてもらい、自らが事業部長としてビジネスを動かすというユニークなプログラムも経験し、ビジネスがどんどんおもしろくなっていったという。「もっとビジネスの修行がしたい」。そう考えた稲川が就職先として選んだのは、経営戦略コンサルティング会社だった。「菓子製造業から飲食業、重工業まで、さまざまな分野のビジネスに触れることができて勉強になった」というコンサルタント時代、入社1年目の終わり頃に訪れた寿司屋で、稲川はWAKAZE誕生のきっかけとなる出会いをすることになる。

酒づくりへと導いてくれた、寿司屋での一杯

「今までに味わったことがないくらいフレッシュでおいしくて、雷が落ちましたね」

創業のきっかけとなった日本酒との出会いを、稲川はこう振り返る。

「フランス生活ですっかりワインにかぶれていましたし、ずっとサッカーをやってきた私にとって日本酒は『先輩から飲まされる悪い酒』でしかなかったので、こんなにおいしいものなのかと驚きました」

味の力だけではない。稲川が思い描いていた事業イメージに、日本酒がピッタリとはまったからこそ「雷」は落ちたのだ。

「自分で事業をやる上で、2つのキーワードがありました。1つは『ものづくり』。祖父が立ち上げ父が引き継いだ会社の事業は、カメラ部品の製造だったんですが、カメラ需要の減少とともに継続が厳しくなってしまいました。父の背中を見て育ってきて、自分のことのように悔しかったし、日本のものづくりをなんとかしたいと思っていました。もう1つは『海外展開』です。2年間暮らしてみてわかったんですが、フランスにおける日本の嗜好品の存在感が本当に弱くて。日本が特別に好きという人は別ですが、一般的には日本酒を知っている人なんてほとんどいないんです。それもやっぱり悔しかったんですよね。日本酒の本当のおいしさを知り、世界に切り込んでいける日本のものづくりはこれだ、と直感的に思いました」

程なく、起業を見据えて動き始めた稲川。友人などの紹介で知り合った日本酒好きの仲間とともに、週末起業のスタイルで日本酒のプロジェクトを開始する。

「たくさんの日本酒好きとお会いする中で、今当社で杜氏としてともに働いていてくれている今井と出会いました。彼の実家は酒蔵で、マーケティングのお手伝いをしながら利き酒セットの開発をさせてもらったりして、どんどん日本酒にのめり込んでいきました」

事業を動かした、庄内での出会いの力

2015年10月、日本酒との衝撃の出会いから1年を待たずしてコンサルティング会社を辞職、翌年1月に単身WAKAZEを創業した。第1弾のオリジナルの日本酒は味こそよかったが売り上げが伸びず、また資金集めなどもうまくいかず、稲川は東京で悶々とした日々を送っていた。そんな生活が4ヶ月ほど続いたある日、ひょんなことから庄内を訪れることになる。

「スパイバーさんなど、鶴岡のベンチャーを訪問するツアーに参加したんですが、衝撃を受けましたね。熱い想いを持った起業家たち、おいしいお酒と食べもの。暮らす上ではもちろんですが、ここで酒づくりをしたらもっとおもしろいことができるんじゃないかと考え、すぐに移住を決めました」

4月に初めて庄内を訪れ、6月に移住し、7月に会社の登記場所を鶴岡に移した稲川。驚くべきスピード感と行動力である。そしてこの移住から、WAKAZEの快進撃が始まる。洋食にも負けないボディの強さを持つ、オーク樽熟成の「ORBIA」、柚子や檸檬、山椒、生姜などの薫りが楽しめる、ボタニカルSAKE「FONIA」の2つの看板商品を開発。東京を中心に全国、また海外にも飛ぶように売れるヒット商品となったが、それを支えているのは庄内でのたくさんの出会いだという。

「第一に、私たちのお酒をつくってくださっている渡會本店さん、オードヴィ庄内さんという2つの酒蔵との出会いがあります。今の日本の法律では、60キロリットルという法定製造数量が定められていて、膨大な量の酒をつくり続けられないと清酒の醸造許可が降りず、新規参入のハードルはとてつもなく高いんです。なので、私たちは酒蔵さんにレシピをお渡ししてお酒をつくってもらう、委託醸造という方法をとっています。醸造途中で柑橘類やスパイスなどを入れたりと製法が特殊であることもあり、なかなかつくっていただける酒蔵を見つけるのが難しかったんですが、渡會さんとオードヴィさんは快くお引き受けくださいました。私たちの取り組みをすごく応援してくださっていて、感謝してもしきれませんね。
また、地域全体に新しい取り組みを歓迎してくださる空気があるなと感じています。融資などでお世話になっている金融機関だけでなく、行政、メデイア、そして地域住民のみなさんがすごく応援してくださっていて、地域全体に支えていただいていることを感じていますし、本当に感謝しています」

ロールモデルとして起業を後押しするという、恩返しのかたち

2018年7月には、法定製造数量の少ない「その他の醸造酒」の免許を取得し、東京都世田谷区に「WAKAZE三軒茶屋醸造所」を開設。一般的な日本酒である「清酒」をつくることはできないが、どぶろくやボタニカルSAKEなど、WAKAZEらしい商品開発のためのラボとして運営がスタートしている。併設の飲食店「Whim SAKE&TAPAS」では、多国籍料理とともにつくり立てのお酒が味わえるそうだ。また、自社醸造の清酒をつくるため、2019年にフランスに酒蔵を構える予定だという。会社のミッションを遂行するため「庄内にいる時間は、少しずつ短くなってしまっている」そうだが、「WAKAZEを育ててくれた庄内に、自分にしかできないかたちで恩返しがしたい」という強い想いが、稲川にはある。

「以前から、もっと起業がカジュアルになるといいなと思っているんですが、私が経験してきたことを伝えたり、頑張っている姿を見てもらったりすることで、庄内で起業する人を増やせないかなと思っています。たった1人でスタートした事業でも世界に打って出ることができる、庄内という地域にはそういった応援してくれる風土があるということをもっともっと伝えていくことで、地域経済を盛り上げていければと思います」

日本酒を世界酒に。庄内でのたくさんの出会いを力に、稲川の挑戦はこの先も続いていく。

株式会社WAKAZE 代表取締役社長
稲川 琢磨 イナガワ タクマ

1988年、母親の実家がある和歌山県新宮市で生まれ、東京都豊島区で育つ。慶應義塾大学在学中、フランス政府の奨学金給費生として2年間パリの「Ecole Central Paris」に留学しビジネスに目覚める。理工学研究科修士課程修了後、ボストンコンサルティング・グループにて経営戦略コンサルタントとして1年半程勤務し、2016年にWAKAZEを創業。

株式会社WAKAZE

2016年1月、東京にて創業し、同年7月より本社を山形県鶴岡市に構える。「日本酒を世界酒に」のコンセプトのもと、オーク樽で熟成させた「ORBIA」、和の柑橘やハーブが華やかに薫る「FONIA」など、革新的なSAKEを日本全国・世界に届けている。飲食店併設の「WAKAZE三軒茶屋醸造所」やフランスでの日本酒づくり(2019年開始予定)など、既成概念にとらわれない酒づくりを展開する。
山形県鶴岡市末広町5番22号 マリカ西館2階201号室